2001年8月14日

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玄関の扉の鍵を差し込もうとした瞬間、自分の頭上が気になった。 天井部分には明かりが照らされているのだが、電球が切れかかっているのか時折暗くなったり明るくなったりを繰り返しているのである。 こればかりはどうしようもないので、近々大家さんに連絡を入れなければいけないな、などと思いながら改めて鍵を差し込む。 (……ちょっと待てよ……) その瞬間、恐ろしい予感が脳裏に浮かぶ。 ――もし……もしもである。 この部屋に、既に渡邊さんが潜んでいるとしたら……? 可能性が無いわけではない。なぜなら彼女は、自分の部屋の鍵を盗み、勝手に合鍵を作成しているかもしれないからだ。 真っ暗な部屋で、自分が戻ってくるのを待ち続ける渡邊さんの姿……その光景を思い浮かべ、再び体が震えあがる。 (これが強迫観念ってヤツか……?!) 心理学の講義で講師が口にしていたのを思い出す。 本人の意思とは無関係に恐ろしい事を思い浮かんだり不安感を抱いたりする精神失調の1つである。 (まるで自分が、おかしな奴みたいじゃないか……! 違う! 自分は通常だ! 部屋の中に渡邊さんがいる訳がない!) 自分に言い聞かせ、鍵を回す。そしてゆっくり扉を――開ける。 ――ガチャ……リ 開いた! という事は、鍵はちゃんとかかっていた事になる。 (……そうだ。いるわけがない、いるわけがないんだ) 玄関の灯りをつけ、鍵をかける。チェーンロックもしっかりとかけて、ほっと一安心する自分。
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