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警察に見つかれば捕まってしまう程の速度で、車は広島へと突き進む。
移動している最中、自分とヤマさんは一言も声をかける事がなかった。
何か口に出せば、恐怖で押し潰されてしまいそう……そう感じたから。
車に乗り込む前、ヤマさんに訊ねた。マツモッフィーに一体何があったんだと。
だが「分からない」としか答えてくれない。おそらく電話をよこしたゆー君自身も、何故マツモッフィーが病院に運ばれる事になったのか分かっていなかったのだろう。
――渡邊さん……彼女と関わってからというもの、身の回りで嫌な事しか起こっていない気がしてならない。
あの時、合コンなんかに行かなければ……もう少し地元である広島に長居をしていれば……
後悔ばかりが先走り、次第に涙が零れた。それをヤマさんに見られないよう、窓ガラスの方へ顔を向ける。
……泣いている場合か。
震える手を握り締め、自分の頬を思い切り殴りつける。
じわりと痛みが広がっていき、口の中に鉄の味が広がった。
ヤマさんはやはり、何も言ってはくれなかった。それが彼なりの気遣いであり、優しさであるという事は十分理解していた。
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