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1年前と同じように、自分とヤマさんは徳島県へと向かう事にした。
あの時は半分旅行気分で、カーステレオからBGMでも流しつつ軽口をたたいて笑いあったりしていたが、今は違う。
緊張した面持ちで、会話もほとんどない。ただ黙々と、送り先伝票の住所を目指す。
「……これで解決出来ればいいんだけどね」
自分が囁くと、ヤマさんは無理やり明るい声を出して、こう言った。
「大丈夫だ、なんとかなるって! 万が一ダメだったとしたら、俺が直接渡邊本人に言ってやる。つきまとうなってな」
「……ありがとう」
心の中では、これ以上ヤマさん達に迷惑をかけられないというのがあった。
もう十分に色々な事をしてもらっている。心配もかけている。
直接本人にやめろと言うのは、ヤマさんの役目じゃない。自分が直接言わなければいけない事……そう思っていた。
1度としてインターを寄らなかった事もあり、前に来た時よりも早めに徳島へ到着する。
近所のコンビニで地図と飲み物、そして簡単な食事を購入し、送り伝票をみつつ目的地へと向かう。
元々方向音痴な上に地図が読めないという自分のナビゲートのせいで、そこに辿り着くまで結構な時間がかかってしまった。
簡素な住宅街、似たような家が並ぶ中で言っては悪いが一際古くさい家が田辺さん宅のようである。
「表札とかは出されていないけど、ここで間違いないと思う」
「……渡邊の話をトシから聞いているから、先入観でそう思うのか……随分と気味悪い感じのする家だな」
ヤマさんと同じ印象を自分も受けた。植物のツタみたいなもので2階建て住居の半分は覆われている。まるで浸食されているようだ。
更に外に置かれていたのであろう鉢もことごとく割られ、ここの家だけ台風でもやってきたのかという感じだった。
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