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「……洋樹を欺きたかったわけじゃない。洋樹を裏切る様なことは何もしていない。だけど、洋樹が嫌がるだろうから、隠さざるを得なかった。ごめん」
散々言い訳を放ってからの、私の『ごめん』に、洋樹が顔を歪めた。
洋樹に疑いを持たせる様なことをしたのが悪い。私が悪い。分かっているけれど、洋樹はあれから曇りっぱいなしの私の心を晴らしてくれない。洋樹が努力してくれているのは分かっている。だけど、心に出来た曇天は、雨さえ降らずとも薄暗いままで、ここ最近は雲一つない晴天状態になったことがなかったんだ。課長といる時は、そんな厚い雲に切れ間が出来て、暖かい光が差し込んでくる様な感覚になったんだ。
「……やっぱり。課長に持って行く気だったんだ。何だかんだ日花里も分かり易いヤツだよね。日花里は気付いてなかったかもしれないけど、俺が『明日は接待の日』とか言うと、『大変だね』って言いながら冷蔵庫の方に目を向けて考え事してたんだよ。俺がいない日の料理の考え事って、普通におかしいだろ」
眉間に皺を寄せて笑う洋樹は、苦笑いでも何でもなく、怒りが滲んでいた。
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