正解と信じていた、不正解。

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「昔のドラマのセリフみたいなことを言うんですね」  課長は『フッ』と小さく息を吐いた。 「『自分の気持ちに嘘が吐けなかった』『自分の気持ちに素直に正直に生きるべき』。そんなのただの甘えです。我儘です。自分の気持ちになんか嘘吐けば良いんです。そうでなければ人が死んでしまう。大切な人が死んでしまうんです!!」  課長が拳を振り上げて、自分の太腿を叩きつけた。  やりきれない思いが溢れ出ているのが見て取れた。 「……滝川さん。知っていましたか? 山下くん、今月最終日にも顔を出すと言っていましたが、実質今日がこの支店で仕事をする最終日だったんです。明日、10時の飛行機で向こうへ行くそうです。滝川さんはまだ間に合いますよ。自分を大切に思ってくれている人の手を離しても良いんですか?」  課長が私の肩を掴んで揺らす。 「……それは、自分の気持ちに嘘を吐け……ということですか?」 「山下くんを大切に思っていた気持ちを思い出してくださいということです。滝沢さんには後悔して欲しくないということです」  真剣な眼差しで私を諭す課長。 「……明日、有給にしてください」 「分かりました。申請は後日で大丈夫ですから」  課長がやっと笑顔を見せてくれた。  課長の言葉に背中を押され、洋樹に会いに行かなければと思った。  洋樹に会いたいと思った。
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