仮想世界の修正作業

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仮想世界。 普段暮らしている世界とはまた別の、いわゆる妄想で作られた架空の世界である。 現実からかけ離れたこの世界では、武器や魔法、魔物が出てくる世界や絵に書いたような理想の世界など様々な世界観がそれぞれ一冊の本のようにまとめられ、一つの世界に集まるようにして納められている。 そんな仮想世界の中の一つ、ファンタジーに分類されている世界では、ある噂が広がっていた。 「最近修正作業多くなったよね」 「確かに。この世界を安全に遊ぶ上で必要な作業だっていうのは分かるけど、さすがに一ヶ月は長いよね。何かあったのかな」 修正作業。 人々が仮想世界を安全に過ごすための作業であり、早ければ数時間、長ければ何日もかかったりするため、世界観にも人々にも規制の生じる負荷の多いメンテナンスだ。 この修正作業があってか、今まで安全で平和な理想の世界を築き上げていた仮想世界だが、人々が言うには日に日にその修正作業の感覚が早く、そして長くなったらしい。 その影響でこの世界の限られた場所にしか行くことの出来ない不自由さに、この世界へと足を運ぶ人々が減ってきている。 「うーん、これは何か探った方がよさそうね」 仮想世界とは別に設けられた仮想世界を語り合う場所、通称“掲示板”と呼ばれる集会所を模したところで一人の魔法使いのような少女が難しそうに飲み物を口に入れる。 「『そだな』」 「あなたのひどい訛りがカバーできる文章モードも働いている辺り、会話する分の支障は少ないみたいね」 「『そだな』」 訛りがひどいと言われた剣士の青年は魔法使いの横で黒い飲み物を飲むとぷはっと息を吐く。 「相槌以外に何か案出してよ。あーあ、知り合いの職種に探偵の子か情報屋がいたらいいアドバイスがもらえそーなんだけどなぁ」 修正作業の影響で会話をするための場と化した集会所に集まっている人々を横目にため息をつく。 「『この修正作業の内容を見ん限り、この世界だけに限った話じゃねぇみたいだな』」 剣士はこの世界の情報が書かれている紙に目を通すと、ほら、と魔法使いに手渡した。
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