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「紙自体は私もここに来る時にちょっとだけ見たわよ。とにかく、修正作業の影響でこの世界自体に来れなくなる前に、今行ける範囲のエリアに行って情報収集するしかないようね」
手渡された紙に書かれている情報は自分が最後に見たものと変わらず、集会所にいる方が情報の動きが早いくらいだ。
「『そだな。じゃ、役所に行って交渉すんか』」
剣士は魔法使いから渡された紙を懐に戻すと、集会所から少し離れたところにある役所に向かう。
「すいませーん」
「あら?設定変更やエリア攻略なら修正作業の関係で停止しているけど……どうかしたの?」
「『そのことについて相談があるんですけんど……』」
役所を管理している人は何度と交渉を聞かされたのか、こちらが言わんとしていることを瞬時に把握し、先手を打ってきた。
剣士はうぐっと図星をつかれるも、交渉に必要な身分証を提示し、話を続ける。
「あら。あなたが“あの”剣士様ね。待ってたわ」
そう言うと役所の女性はにこにこと笑顔を浮かべたまま自分のすぐ横に置いてある資料を渡す。
「(待ってた?そんな簡単に役所の人が資料を渡すなんて剣士ったら何者なの?)」
剣士は自分より前にこの世界にいて、長年(といっても数年だが)の相棒になる先輩だが、どうにも正体が掴めない。
「『あっ、どうも』」
役所の人から資料を受け取ると、資料を指で辿りながら剣士は役所の人に何やら交渉を続けているようだ。
「そうねぇ。本来は危険区域になってるから私達以外は立ち入りできないんだけど、剣士様なら安心ね。そこの魔法使いの子も身分証を見せてくれたら案内するわよ」
「あ、ありがとうございます」
魔法使いは役所の人に身分証を見せると、「あらぁ」と驚いたような声を小さくあげた。
身分証には自分の今の職業や使える力、装備している物といった基本情報の他に、仮想世界とは別の、現実世界での本来の個人情報が記載されている。
この本来の情報というのは自分を除き役所の人だけが見ることの出来る情報である。
「『どうかしましたか?』」
「剣士様ならこの世界の修正作業を手助け出来る存在になれると信じていたけど、お付きの方も心強い存在だったのねぇ」
「『は、はぁ』」
何やら意味深な言葉で剣士に微笑み、魔法使いにちらりと目線を送る。
「(いってらっしゃい)」
そう、剣士に聞こえないよう口だけを動かして魔法使いを応援した。
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