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「さてと……どうしよっか?」
再び輝の家のリビングに集まり、珠姫を囲む様に三人が頭を悩ませる。そして珠姫は一人ソファーに座り、ブツブツと呟いていた。どうやら珠子と珠姫が心の中で話し合っているらしい。
「ねえ、珠子……じゃなくて、珠姫ちゃん?」
「どうしたのじゃ、母上?」
「あなたは御先祖様である明智光秀の娘なのよね? 魂だけと言う事は、成仏出来なかったの?」
「それが分からぬ。ある時、石田三成がわらわを人質にしようとしたのじゃ。細川家の名を穢すくらいなら死んだ方が良い。しかし、キリスト教では自害が禁じられておる。そこで家老に介錯を頼んだ。じゃが恐らく、成仏出来なかったのであろうな……気が付いたら珠子の体の中に居ったのじゃ。まあ、キリスト教に成仏と言う概念は無いがの」
壮絶な人生の最後をサラリと言う珠姫に対し、誰も言葉を返せない。
「自ら死ぬ事を決めた時点で駄目なのかのう? 成仏出来ぬとしたらそれくらいしか考え……あっ、思い出した!!! お主ら、信長公の最後を知っておるか!?」
「明智光秀が謀反を起こして織田信長を攻めた本能寺の変だろ? そんなの誰でも知ってる……ぜ……」
小柄で華奢な女子高生とは思えない目力で睨まれ、輝は気圧されて言葉を詰まらせた。
「フム、やはりのう……もう一つ聞くぞ。わが父、光秀の最後は知っておるか?」
眼力で金縛り状態になった輝に代わり亜紀が答える。
「秀吉に敗れて落ち武者狩りに遭ったが一般的よ。でも不明な部分が多くて、色々な諸説が蔓延してるわ。そもそも、謀反を起こした理由なんて何も分からず、定説が無いわね」
「そうであろう。何故なら、その歴史は間違っておる。真実ではないが故、皆知らぬのじゃ。信長公の最後は有名なのに、わが父の謀反の理由や最後が曖昧なのはおかしいと思わぬか? 天下の一大事で同時期の話じゃぞ?」
全員が息を飲み、耳を傾けた。誰一人として珠姫の言動を笑い飛ばさない。それ程までに惹きつける力が珠姫の一言一句にあった。
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