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珠姫が現れた次の日から、珠子は体調不良で学校を休んでいた。そして、学校が休みの土曜日になると輝へ連絡が入る。
「輝君、ちょっとお話がしたいんだけど……」
「分かった!」
珠子からの連絡をずっと待っていた。
家は隣同士。電話で深く話す必要も無く、輝は最後まで話を聞かずに電話を切り、珠子の部屋へと夢中で駆けて行く。
その間、わずか一五秒。
勢いよく部屋の扉を開けると、下着姿の珠子が視界に飛び込んで来た。どうやら、着替えながら電話していたらしい。こんなに早く来ると思わなかった珠子は固まってしまい、輝はそっと扉を閉める。
「ごっ、ごめん」
「……」
珠子からの返事は無い。
「次からはちゃんとノックするからさ」
「……」
無言とは、これ程に恐ろしいものなのだろうか? 冷汗を吹き出しながら待つと、やがて声が聞こえる。
「……どうぞ」
部屋に入り、輝の鼓動は一気に加速した。先程は珠子だったはずが、今は確実に珠姫だ。目力が語っている。
珠姫は机の上に置いてあった包丁を握り締め、無表情で投げつけた。
包丁は輝の髪をかすめて、飾り気の無い真っ白な壁へと突き刺さる。
「切腹しろ」
見下す瞳は氷の様に冷たく、腰まである柔らかな髪が揺れる度に恐怖を感じた。
「おっ、おっ、お前が部屋に呼びつけたんだろ!?」
「わらわは呼んでおらぬ。着替え中に部屋へ忍び込んだ罪で切腹じゃ」
「たっ、珠子に変われよ! 俺は珠子に呼ばれたんだ」
「ふむ……お主に刃物を投げつけたら、珠子は気絶してしもうた」
腰を抜かした輝は、頭を抱えて大きなため息を吐く。
「……悪かった。反省してるから許してくれよ」
「仕方が無いのう。可愛い家来の為じゃ、大目に見よう。但し、次は無いぞ」
「……」
納得はいかないが、これ以上追及すれば泥沼に嵌まると感じて話題を変える事にした。
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