たまひめの作戦

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「だが、これから増やせば良いだけじゃ。わらわの直属の臣下として、五千……いや、最低でも一万くらいの兵力は欲しいのう」  趣味として遊んでいるだけの俺が、ファンを一万人も作れると思ってるのか!? 「それが出来れば、閲覧数と言う知名度も一千万は超すじゃろう。さすれば、歴史の真実を変えられるやも知れぬ」  だから無理だって!  「この国は一億二千万人以上居るらしいからな。楽勝じゃ」  ふざけるな!  「先ずは真実を書き綴った短い書物を作るがよい。題名は『歴史の真実』が良いかのう? 閲覧数を増やす為、あらゆる手を使うぞ。また、ふぁんを増やす為に他の作品も書くのじゃ。目指せ、ふぁん一万人! 閲覧数一千万人じゃ!」  本気か? 珠子は止めなかったのか? 言いたい事は山ほどあるが、壁に突き刺さった包丁を抜き取って微笑む顔が怖いから何も言えない。 「やってくれるな? 勿論、目標を達成したら褒美をやるぞ」 「褒美?」 「珠子が接吻してやる。嬉しいであろう?」  ……  ……  ……これは珠姫だ。珠子じゃない。騙されるな。でも……照れ屋過ぎる珠子とキスなんて学生の内には無理だと諦めていた。それでも青春の思い出を作りたいと、日々悶々とした夜を過ごしていた輝は珠姫の唇から目が離せない。 「御意」  魅惑の唇を見つめていたら、御意なんて言葉が喉から勝手に出ていた。 「ふふっ、接吻如きで顔を赤くするとは可愛いのう。そうじゃの……頑張り次第では、接吻以上の褒美も考えてやるぞ」  接吻以上とはなんだ!? 妄想が爆発しそうになる。しかし、可愛く微笑む珠姫の手元には包丁がしっかりと握られていた。 「一つだけ聞いていいか? その包丁はなんだ?」 「包丁? これの事か? 台所から借りてきた、わが身を守る懐刀じゃ。不届き者はこれで成敗してくれるわ!」 「……」  外では蝉の大合唱が響き渡り、刺さる様な暑い日差しが窓から照り付ける。  本格的な夏の到来と共に、輝と珠子の非日常は始まりを告げた。
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