仲間

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「ほう、良い殺気を持っているじゃないか。先程の腑抜けた状態とは別人に見える程だ。その気迫に免じて良い事を教えてやろう」  不気味に微笑む才蔵を見て、珠姫が声を上げる。 「輝、耳を貸すでない! そやつの話術で戦意を削がれるぞ!」 「本当に聞かなくて良いのか? お前の仲間が大変なのだぞ?」 「仲間だと?」 「輝!」  術中に嵌まってしまった……返事をした輝には珠姫の声が届かない。 「秀樹の側近に明石と言う男がいる。その明石が茉莉とか言う娘に薬を盛り、体の自由を奪って秀樹の下へと届けていた。今頃は慰み者となっているやも知れぬな」 「信じるな、輝!」 「本当の事だ。今なら間に合う。明石は強いが、お前ならどうにかなるやも知れぬぞ」  才蔵と珠姫の声が交差する中、輝の気迫が薄れた。思い通りに事が運んで口角を上げる才蔵。しかし次の瞬間、思いもよらない輝の笑い声が響き渡る。 「アハハハハ……確かにマツは抜けたところがあるから有り得るな」 「何故笑う?」 「もしお前の言う事が本当だとしても、トシがいるから問題無いんだよ。表に出さないけど、トシは妹のマツの事を一番大切に思っている。あいつがマツを危険な目に遭わせるなんて有り得ないんだ」 「……トシとは、秀樹に手を上げようとした前田俊彦だな? あの男では明石に勝てぬよ」 「トシは昔、手が付けられない程の暴れん坊でさ、友達も作らずに孤独だった。それが気に食わない連中もいて、トシを数人で襲ったんだけど返り討ちにあった。その時、偶然マツが居合わせて怯えさせちまった。それ以来、不器用なトシは一人称を僕に変え、必死に友達を作ろうとしたんだ。笑えるだろ? 全ては妹の為なんだよ。友達がたくさんいる優しい兄として、妹に笑って欲しいんだよ。そんなトシが昔を思い出して、俺って言い出したら誰にも止められないね。だから心配する事なんて何一つない。俺がやるべき事は、あんたを倒して可児先輩の魂を解放するだけだ!」  普段からは想像出来ない、強い絆が伝わった。珠姫は言葉が見つからず、ただ輝を見つめて祈りを捧げる。
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