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「だからさ、そのネックレスを返せよ。なっ? もう少しだけ現世で遊んでもいいだろ?」
「ありがとう……でも駄目じゃ。わらわはお主らの事が好きになってしもうた。時間を重ねれば重ねる程、その気持ちは膨れ上がって行く。本当のわらわは、この時代にいてはならぬ。分かってくれるな?」
「分からねーよ! そうだ、約束はどうなった!?」
「忘れてはおらぬよ。珠子も了承しておる。わらわが消えたら褒美を受け取るがよい」
「嘘を吐くな! 珠子が……珠子がそんな事を言うはずない!」
「困ったのう……じゃが、わらわの意志は変わらぬ。それは輝も分かっておろう」
気付いていた。分かっていた。でも、心が許さなかった。
しかし、珠姫の透き通る悲しげな瞳を見据えると、何を言っても無駄だと感じてしまう。決意は固い。ならば、これ以上淋しそうな顔をさせたくはない。
「分かったよ……でも、珠姫が消える前に褒美を貰うぜ」
「えっ? 珠子に代われば、その隙にネックレスを取り上げるつもりじゃろ? わらわは珠子と代わらぬぞ」
「そのままでいい。褒美は珠子からのキス……珠姫だって明智珠子だろ?」
「なっ、何を言っておる! あっ、ちょっと……待っ……」
顔を真っ赤にして必死に抵抗しようとする珠姫だが、輝の真っ直ぐな目を見ると動けなくなってしまった。
「好きだよ……気付いた時には、かげがえのない存在になってた……」
「……卑怯者め。そんなことを言われては……」
月光のスポットライトを浴び、二人の唇が重なり合う。
お互いを強く抱きしめ、永遠に続いて欲しい時間が過ぎて行く……
「ふふっ……涙が止まらぬのう。珠子よ、すまぬ。最後の悪ふざけじゃ。すぐに輝は返すから待っておれ」
珠姫は輝からそっと離れ、ネックレスを首に掛けた。
「さらばじゃ」
輝は涙で滲む目を擦り、珠姫をじっと見つめる。
その視線の先には、同じく涙を流す幼馴染の瞳があった。
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