第二章/第一幕「夢を捨てし者と夢を追いかけし者」

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あの出来事からの初めての休み明け 伊野部は、会社に向かうために電車に乗っていると後ろから肩を叩かれ、誰かが呼ぶ声が聞こえた。 ふと呼ぶ声のした方を見てみれば、そこには見覚えのある人物が…… 「先輩お久し振りですね」 「あーせやな、しばらく有休貰って休んどったからな」 「良かったです。先輩が元気になって」 なんかあったんですか?しばらく休んでた間に……不思議そうにしかしどこか嬉しそうに問い掛けてきた。 「んーまぁあったと言われたらあったって言うんかな……」 首を傾げながら曖昧に答えるとなんか曖昧な答え方ですねと予想通りの事が返ってきた。 「あーもう気にしたらあかんわ!伊川お前あんまうるさいとシバくぞ」 わざと軽く頭を叩いてそう告げるとちょうど降りる駅を告げるアナウンスを合図に駅に止まり、人の流れに乗って電車から降りた。 「ちょっ痛いやないですか!って待って下さいよ!先輩」 叩かれた伊川は、頭を押さえながら先に降りた伊野部を追いかけるように急いで電車を降りた。 「頭叩く事ないやないですか!」 「お前があんまりしつこいからやろ」 駆け足で隣に並んで歩いては何度も聞いてくる伊川に伊野部が呆れた様子を出しながら答える 「……ほんまにいつも通りの先輩ですね」 伊川が不意に悲しそうな笑みを浮かべて呟いた。 「なんやねんいきなり……」 「えっ?いや、今のはただの独り言ですよ。独り言」 伊川は無意識に呟いていた言葉を伊野部に聞こえていたのが分かり、驚いて手を振って少し焦りながら答える そんな伊川の様子を見て伊野部は何とも言えない胸騒ぎを覚えた。 「俺が休んでる間にお前なんかあったか?」 「な、なんでですか?」 「いや、ちょっと気になって、な……」 「何もなかったですよ?変わらずいつも通り過ごしてましたけど」 「……ならええんやけど……」 まだ胸騒ぎを覚えながらもこれ以上聞いても何も答えてくれないと悟った伊野部は、それ以上聞こうとせずに歩みを進める。 そんな事を思いながら右手首の傷跡に触れていた。
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