5人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
◆TRIUMPH◆
ここは、金と酒に恋すら飛び交うネオンの街。ダウンタウンを横目に一つ細い路地を曲がれば、廃れたビルが立ち並ぶ。その手前から二棟目の4階。そこが俺のステージだ。
マジックバー、“ Triumph ”。
白の長髪がトレードマークのマスターと、愛くるしい鳩を常に連れて歩く喋りの巧いカケルさん。基本はドリンクを運ぶだけという、入って間もないマジシャン見習いのキョンちゃん。そして俺、Keiと名乗る、山本佳太郎。
一歩入れば世界は変わる。今日も四人で元気に営業中!…なんてことはない。
「カケルくん、この間のステージ良かったよー!」
その声は、どこぞの会社のお偉いさんだという、まん丸のお腹の常連客だった。
カケルさんはちょこちょこ大きなステージでショーをやっている、ステージマジックがウリのマジシャンだ。
大まかにマジックは三つに分けられる。
テーブル越しに少人数を相手にすることが基本の“クロースアップマジック”。ステージから大人数を相手に大掛かりな装置や物、人を使って行われるのは“ステージマジック”。人体の切断や爆発からの脱出なんかはステージマジックの代表だ。その中間くらいの距離・人数でやるのを“サロンマジック”という。
マジシャンはそれぞれ、できるマジックがちがう。もちろん共通してできるものも多いのだが、それぞれにウリがある。
カケルさんは、倉庫を借りてそこに道具を保管しなくてはならないほどの本格的なステージマジシャンで、ファンもしっかりと獲得している。
かく言う俺は、クロースアップマジックの中でもカードを得意としている、いわゆるカーディシャン。
ポケットやバッグに最低一つ、BICYCLE(バイシクル)という一番オーソドックスなトランプを常に持ち歩いているわけだ。激安の殿堂でも買える代物。これは、マジシャンあるあるだ。
そして普段使いのバッグにはBICYCLEのほかに、TALLI-HO(タリホー)も大体入れている。これも代表的なトランプの一つ。
俺の場合は収集癖が功を奏して、家には20種類を優に超えるトランプが並ぶ。何百円で買えるものから何千円もするものまであるのだ。マジシャンの中でもマニアの世界に足を突っ込む俺みたいなのは、トランプの束のことをデックとか呼んだりもするが、まぁ普段はトランプで統一している。
最初のコメントを投稿しよう!