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チェックを済ませた彼女を送り出しに外に出る。ここ最近は、俺に懐く彼女に気を回してかマスターたちは誰も出てこなくなっていた。
「今日も、ご馳走さまでした」
彼女はそう言ってぺこりと頭を下げて踵を返す。しかし、その足はそのまま止まって、彼女が顔を振り向かせた。
「そうそう、勘違いしてるみたいなんで一応訂正しておくけど、最初に来たときのあれ、彼氏じゃないんで」
「…へ?」
「じゃ、宿題やってきまーす」
間抜けな俺の反応を置いてけぼりにしたまま、彼女は颯爽と帰っていった。
その背中を見送りながら、ぽかんと突っ立っていたところに声が飛んでくる。
「芽生えちゃったかー、これは」
驚いて振り返ると、開けっ放しになっていた扉に手を付いたマスターがそこに立っていた。俺はなんとも言えない気まずさに一瞬黙った後、視線を逸らして店内に戻ろうと足を踏み出した。
「のぞき見なんて、趣味悪いですよ」
マスターの横を通り際に、悪態一つを残して。
「知ってる?Triumph の意味。“大手柄”ってのもあるんだよ」
「いや、うるさいです」
これはまた、悩みの種が増えそうだ。そう胸の内で溜め息を吐いた。
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