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◆closed TRIUMP◆
彼女が帰って閉店となった店内は、マスターとカケルさんと俺の三人が残っていた。
「それにしても、Keiくんが女の子を射止めちゃうとは思わなかったわ。うちの店の一番のマジックだな」
失礼にも口を開いたのはカケルさん。
「いや、なにも起こってないじゃないですか、現状としては」
「いやいや、彼氏いないアピールなんて、“私を落として”と同義だから。ダークホース現る」
からかうように言うカケルさんは、良い獲物が見つかったと言わんばかりのハイテンションだった。色恋沙汰が好きなのは、男も女も変わらないのか。
「ダークホースって。カケルさんの方が断然モテてるじゃないですか」
「みんなマジシャンって肩書に酔ってるだけでしょ。それ言うなら、坂城さんでしょ。マダム層が厚いですよね」
そう言って、カケルさんがチラッとマスターを見た。
「…え、俺?」
まるで蚊帳の外とばかりに俺たち二人を眺めながらウイスキーを飲んでいたマスターが、一瞬遅れて反応した。ほら、もう酔ってる。
「あれはキツイでしょ。獣に近いと思うんだよね、彼女ら。俺の方が食べられそうで怖いよねー」
平然と言うマスターは、そう言いながら少しも怯えてなんかいなさそう。…喜んでもいないだろうが。
「坂城さんのファンって、ラウンジのママさんとか独身を謳歌する飲み好きのマダムが多いですもんね。結婚してるって知っても関係ないような」
「そこはホストと違うとこだよねー」
ふわっふわした言葉は、暗にマジシャンがホストみたいだと言っているようで、つい笑ってしまう。
「もしKeiがホストだったらって思うと笑っちゃうよねー」
続けて言うマスターの言葉に、今度は俺が「え、俺ですか?」という番だった。
いや、間違いなく売り上げ0のホストとして、早々に店を立ち去るだろうというのは浮かぶのだが。マスターはどうしてこうも、毒を吐くのに嫌味がないんだろう。むしろ、ちょっと微笑ましいくらいのゆるキャラだ。
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