プロローグ

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4  時計を見ると、11時50分。そろそろ戻るか。チェーンソーをその場に置き、山を下りはじめた。途中で親父に会った。 「どれくらい倒した?」 「重機で集めると、半日かかるくらいかな。」 「そうか。じゃあ、午後は搬出やってくれるか。」 「分かった。」  搬出とは、山にある材料をトラックが積める場所まで運ぶこと。なので、重機が扱えないと林業は出来ない。後は「造材」といって、材料を作ることなのだが、それは親父が専門でやっている。  車に戻り、助手席から2人の弁当を取り出す。 「はい、親父。」 「ありがと。」  適当な切り株を探し、それに座る。 「重機は不安か?」  座るなり、親父が聞いてきた。 「まあ、不安だけど、慣れるしかないから、やる。」 「分からないことだったり、危険だと感じたときは、聞きに来いよ。」 「はい。」  正直、不安でしかない。操作はもう分かってるし、仕事もある程度スムーズに出来る。しかし、ちゃんと出来ているかと聞かれたら、そこには疑問が残る。親父の仕事を見ていると、圧倒的に俺の仕事には、何かが足りないのが分かる。  それを補うのが、経験なのかセンスなのか。それすら分からない。そしてそれは、聞いたとしても、明確な答えはたぶん返ってこない。それが分かるだけに、余計に不安だ。  弁当を食べ終え、少し横になった。  午後は何から始めようか…。
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