更紗

3/6
前へ
/28ページ
次へ
「あげるって、こ、これ……」 「誕生日なんだろ?」 目の前に広がっている風景に驚いていると、あいつはポケットから小さなケースを取り出した。 キラキラ光っていたのはリングだけではない。 「高級魚にふさわしい水際の式場、気に入った?」 こぼさないように必死で堪えたもうひとつのキラキラは、皮のシートに大きな水たまりを作る。 「どういう事か、理解が…」 「……いやだ?」 ぶんぶんと首を振った勢いで、水たまりはさらに水面を広げてゆく。 「いやじゃ、ないです」 「ほんとおもしろい、お前」 安物の金魚は、生を受けた記念日に、はれて鯉の仲間入りをした。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加