素赤

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いつの日にか覚えた金魚すくいは上達せず、焦りもがけば手元を離れる安物の金魚とは違って、例えるならあいつは錦鯉だ。 そんな高級魚になんて縁のない生活なのだから、こんなひと言に胸はトキめいたものだ。 外回りという自由時間を持て余していたあいつのおかげで、私は必要書類を届ける事が出来た。 そしてそのまま連絡先を交換する。 「今夜、食べちゃっていい?」 いちいちドキドキする内容の、あいつから届いたメッセージは今でも保存している。 縁日でおじさんを困らせるタイプの達人のように、いつの間にか手にしていたポイを静かに水に沈めて狙いを定め、 「上物だ」 一瞬ですくわれた私をあいつは、透明でわずかにしか水辺のない、小さな袋の中に閉じ込めた。
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