素赤

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その後どう仕事をこなしたのか、友人とのランチタイムをどこで過ごしたのか、びっくりするほどの記憶喪失だ。 「ゆき……?」 手が空くたび何度も首を傾げる友人に、うっかり話してしまいそうになるほど気弱な1日を過ごし、 「次はいつ会える?」 珍しく甘えたような声で電話をよこしたあいつが、無性に恋しく思えた。 「しばらく、無理かも」 何せ金魚すくいが得意と言われる私の事だ。裏腹や天邪鬼の使いこなしなら、嫌になるほど無意識であって完璧だ。 「時間、作ってよ」 そんな時に限って、あいつはいつもと違う反応をする。 「ちょっと、なら……」 だから、うまくすくえない。
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