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「悪いね、無理言って」
あの日だけは忘れもしない。
あいつとの逢瀬の時間の中で、もう見る事はないと思っていた陽の光は、モテる女らしく手入れを怠らない肌を容赦なく差し続けていた。
「ちょっと、見てほしいものがあってさ」
珍しく明るい時間に呼び出されたのだから、どうにも照れくさく、目を合わせるのも難しかったのが懐かしい。
「なに、それ」
車内のBGMは私の好きなアーティストだったはずだが、それがはっきりと思い出せないほど、私は呼吸で精一杯だ。
「見るって言うか、あげる」
海岸線も見事なタイミングで途切れ、人気のない駐車スペースに2人きりという状況は、普段ならまず肩でも抱かれると思っていた。
「忘れてた?」
薄暗い中で見ていたから気付かなかったけれど、あいつの目尻には、小さなほくろがあった。
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