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2、
村上武智は深々と溜め息を吐き出した。
―――行くべきか。まだ待つべきか。
あれから1週間待っても、ヒカルからの連絡はなかった。
武智はそこそこモテてきたので、恋愛絡みで連絡を待つという経験をほぼしたことがない。
気が付けば女から連絡があり、それに答えるという怠慢極まりない行動が常だったし、更には、口説くために追いかけた事など中学生以降皆無だ。
これは致命的じゃなかろうか。
武智が途方に暮れながらコーヒーを飲んでいると、後ろから声を掛けられた。
「どうした、女にでもフラれたか?」
「は?」
武智が頭だけで振り向くと、部長の山形がおり、その後ろに総務課の女たちの姿もあった。
何故か、満面の笑みを浮かべながら、武智の方へ身を乗り出してくる。
「え~!村上さん、本当ですか?」
「彼女さんと別れたんですか?」
「じゃあじゃあ、お食事とか誘っても大丈夫ですか?」
「あの、」
きゃいきゃいと花を飛ばす女たちに次々と質問され、武智は言葉を返す隙がない。
「こらこら村上に群がるな、女ども。」
「ええ~、食事くらいいいじゃないですか~。」
「ねえ、村上さん?」
「あ、はい。構いませんが。」
「うわぁ、じゃあ、今週の金曜はどうです?」
金曜―――と聞いて、ヒカルが頭に浮かんだ。
武智が答える前に、山形が途端にしかめ面をする。
「そりゃいかん。金曜は社長に誘われてるから、無理だ。」
「え、そうなんですか?」
「さっき言われたとこだ。会長も来るからな。気合い入れとけ。へこたれてる場合じゃないぞ、村上!」
バシッ―――と、山形に肩を叩かれた衝撃で、武智は手に持っていたコーヒーを盛大にぶちまけた。
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