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Chapter 5
1、
〈H side〉
「ヒカル。」
カクテルのツマミにチーズを用意していると、声を掛けられ椿山ヒカルは顔を上げた。小さな店内にはヒカルの他には一人しかいない。
その唯一の人物は『キラハホーム』の社長、喜原勝基。平日の夜にうちの店に来る物好きは、この人くらいだ。
「うちの税理士とは仲良くしているのか?」
「ん?いや、会ってない。」
「何だ。気に入ってたのじゃなかったのか?」
喜原社長に意外そうに言われ、ヒカルは不服そうな顔になった。うちの税理士とは、当然ながら村上武智の事だ。
「気に入った訳じゃないって。ちょっと危なっかしくて放っておけない感じ。直情的すぎてあれは危険だよ。」
ヒカルの言葉に、喜原社長が意外そうな顔をする。
「そんなタイプか?慎重そうだが。」
「たぶん普段はそうなんだろうね。バランスが崩れると、一気に無謀になるっていうか。」
―――だってなぁ。
『社長の愛人』とあっさり寝るような真似をしているのだ。ああして慎重に見せているが、本来はかなり短絡的な性格なのだと思う。
「何だ。よく知ってるな。やっぱり仲良くしてるんじゃないか。」
「してないし。」
ヒカルが嫌そうに吐き捨てると、喜原社長が可笑しそうに笑う。その顔に鋭さは一切ない。喜原社長からの信頼を感じ、ヒカルの顔に微笑みが浮かぶ。
「まあ、そう言わず、うちの税理士をよろしく頼む。」
「はいはい、ちゃんと見張ってますよ。まあ、しばらくは様子見だね。」
もうそろそろ来るかな―――と、ヒカルは答えながら思った。
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