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2、
赤ワインが赤い唇の中へ消えていくのを、村上武智はボウッと眺めた。
「あら、美味しい。ここ、アタリね。」
ふふ―――っと、女が赤ワインを飲み干して嬉しそうに笑う。いつもと違う様相の彼女に、武智は素直に見惚れた。彫りの深い顔立ちは男性的ではあるものの、ワインカラーのドレスが良く似合っている。
普段ももう少し女性っぽい格好をすればいいのに。
「由佳里さん、そうしてると、美人ですね。」
「あなた、本当、失礼よね。」
自分的には褒めたつもりだったのだが、由佳里からは何故か睨まれてしまう。
すみません―――と、武智が謝ると、由佳里は首を傾げてワイングラスを置いた。
「何かあった?」
「いえ、特になにも。平穏ですよ。暇すぎるくらい。」
今日は定期連絡の日であり、由佳里は大学の先輩という設定で、ホテルのレストランで会っていた。
しかし、報告するような進展は何もないのだから、本当にただの食事会でしかない。
「不服そうね。何もないなら良かったじゃないの。どのくらいかかるか分かんないんだから、焦らずゆっくりやんなさい。」
「まあ、そうなんですが。」
焦っている訳ではないのだが、少しの迷いはあった。やはり社長の愛人、ヒカルについてだ。
武智の内面を感じ取って、由佳里がひょいっと片眉を上げる。
「何よ?やっぱり何かあったんじゃないの?」
「あ~、いえ、まだ話すような事は。」
「面倒な男ね。どうせ暇なんだから、話しなさいよ。」
由佳里の機嫌が降下してしまう前に、武智は渋々口を開いた。
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