Chapter 1

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2、 社長の愛人は美しい人だった。 恐らく武智より3、4歳下で、身長は170くらいの普通の背丈。服で隠れている体は華奢だが、中身はきっと鍛えているに違いない。 ―――男なのにな。 決して女に見える訳ではないのに、容姿といい、色気といい、間違いなく美人だった。男に全く興味がないはずの武智が、むしゃぶり付きたいほどに。 武智の不躾な視線に気付いたのか、椿山(つばきやま)ヒカルが首を傾げると、真っ白な首筋が露になった。 ―――あそこに、唇を這わせたら、 ヒカルの動作のひとつひとつに、まるで誘惑されているかの様な錯覚を起こしてしまう。 そんな訳はない。 もう酔ったのか。 目眩を覚えて、武智は意図的に瞬きをした。 「村上さん、お酒どうされます?」 「―――あ、いえ、大丈夫です。少し酔ってしまった様なので。」 ヒカルへ断りを入れると、カカカ―――と、山形笑いながら、武智の肩を小突く。 「何だ、村上、酔ったのか。社長が帰って気が抜けたんだろう。」 「そうかもしれません。」 小突かれて痛んだ肩を押さえて、武智は苦笑いを返した。 さっきまで社長がおり、3人で飲んでいたのだ。仕事の話は特になく、武智を店に連れて来たかったというのだから、まあまあ気に入られてはいるのだろう。 だが、懐に入り込むにはまだ足りない。 ―――だからと言って、この人は危険だ。 ヒカルがカウンターの反対側から、武智の前にグラスを置く。その細く白い指を視線が吸いつけられて、また武智は瞬いた。 「じゃあ、村上さんにはノンアルコールで作りますよ。甘くないのを。」 「はい、それで。」 こんな毒性の強い人を相手にしようなど、武智はそこまで無謀ではない。 社長の愛人は他にもたくさんいるのだから、ヒカルに関わるのは避けた方がいいだろう。
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