220人が本棚に入れています
本棚に追加
Chapter 2
1、
『キハラホーム』は喜原組が経営しているが、表向きにはただの不動産会社でしかない。客の7割は一般人で、場所はギリギリオフィス街、風俗店などが密集する地域の境目に位置している。
実際に働いている社員も、組員とは何ら関わりはなく、事実を知っている者はかなり少ない。
―――では、誰が組と繋がりがあるのか。
それは、役職のある連中だ。
「あ~、しまったな。」
山形が近くを通りかかるのを確認して、武智は態とらしく声を上げた。
「なんだ、どうした?」
「あ、山形部長。お疲れさまです。まだ残業ですか?」
「いや、帰るところだが。おまえ、さっき、何か唸ってただろう?問題か?」
「あ~、問題と言えばそうなんですが、パソコンが動かないんですよね。かといって、他のマシン使う訳にもいかないんですよ。ホストにアクセスが必要で。」
武智のパソコン動かないのは、もちろん嘘だ。
うちの会社にはホストと呼んでいるサーバーがあり、ここに経営、経理に関する情報が保存されている。
アクセスできるパソコンは限られており、税理士である武智と、幹部のモノだけだ。
「システム管理の花方さん、残ってませんよね。」
「オレのを使えばいい。花方はいつも通り定時で帰っただろう。」
「え、いいんですか?」
思っていた以上に上手くいって驚く。
武智が目を輝かせると、山形が満足そうに頷き、自分のデスクへ歩いていく。
人が良すぎるのか、大雑把すぎるのか、それとも、隠すような秘密は何も入っていないのか。
そうなのだろう。
山形の背を追いかけながら、武智は内心で落胆した。
―――ハズレか。
山形はパソコンにパスワードを打ち込むと、クルリと武智を振り返った。
「好きに使え。くれぐれも壊すなよ。」
「ありがとうございます。」
「早く終わらせて飲みにでもいけよ。じゃ、おつかれ。」
カカカ―――と、いつもの笑い声を上げて、山形は去って行った。
「さて、終わらせるか。」
山形のパソコンからは何も期待できないと分かっていても、ここに確かに無い事を確かめねばならない。無駄ではないが、やはり億劫だ。
最初のコメントを投稿しよう!