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3、
〈H Side〉
これで最後か―――と、椿山ヒカルは心の中で感慨深く思った。もしかすると偶然出会う事もあるかもしれないが、その時は違う人物としてだろう。
「なぜ、庇ったんですか?」
やけに苦しそうな顔をして、村上武智が問う。
いや、何だ、その顔は―――と、ヒカルは内心で首を傾げた。庇われた事が不服なのか。ヒカルに怪我を負わせた罪悪感か。
大体、改めて理由を聞かれても、衝動的な行動を説明はしずらい。
「何でって。知り合いが撃たれそうになってたら、普通は庇うでしょ?」
「庇いません。」
「え?」
「普通、庇いません。」
村上がキッパリと言い放つ。
自信満々だが、村上が逆の状況であったら、庇わないとは思えない。
―――何を意固地になって。
ヒカルが呆れて思うと、違う―――と、村上が首を横に振る。
「もちろん助けますよ。でも、庇うのではなくて、突き飛ばす方が自然でしょう。」
「そんな事、言われても。咄嗟に、」
ヒカルは答えながら、呆然となった。
確かに村上の言う通りじゃないか。
守る対象が子供や老人ではないのだから、突き飛ばす方が簡単だったろう。庇う方が格段に負傷する確率が高いのだ。
それを今、村上に指摘されるまで、疑問にも思ってなかった。
―――だって、
庇う事しか思い付かなかった。
喜原遼基の部下が持つ銃が、村上を狙っていると分かった瞬間の焦燥が蘇る。
守らねば―――と、思った。
無我夢中で、冷静な判断などできなかった。
馬鹿な。
馬鹿だ。
―――まさか、このオレが。
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