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ぐしゃっと顔が歪む。
そんな顔を武智に見られる訳にはいかず、ヒカルはうつ向き顔を片手で覆った。
「ヒカルさん。」
ふわりと壊れ物のように抱き締められた。村上の着ているシャツが頬に触れる。散々肌を見せ合ってきたが、こんな触れ方は初めてだ。
村上から向けられる気持ちが本気なのだと分かってしまう。
やめて欲しい。
知りたくなどない。
「オレの事、好きですか?」
村上が慰めるように聞いてくる。
好きだと言うのは簡単だ。
嘘でも、真実でも。
しかし、今、ここで告げる意味は見出だせない。
何も言えずにヒカルが押し黙ると、村上がか細く息を吐く。
「社長の次くらいには、オレを好きでいてくれてますか?」
さっきは自信ありげな問いかけだったのに、急に健気な事を言う。
おかしくなって、ぷぷっ―――と、ヒカルは吹き出した。じわっと目に涙が滲む。
「ここで、笑いますか?」
村上が情けない声を出す。
ヒカルがグッと胸を押すと、二人の体が離れた。無くなる温度に肌寒さを感じる。
嫌だ―――と、思った。
「――――よ。」
「え!?今、何て―――」
「面会時間は終わりですよ~。」
間延びした呑気な声に遮られた。
病室の入り口を見ると、やたらとマッチョな男がおり、ズカズカと乱入してくる。看護服を来ているから、当然看護師だろう。
「椿山さん、お目覚めですね。」
看護師はヒカルへ笑いかけると、村上をギロッと睨み付けた。
「起きたら、ナースコールしてくださいよ。それに、あなた、いつまで居座るつもりですか。」
頬をひきつらせる村上に向かって、看護師がズバズバと言い放つ。知り合いらしい。
「ま、待って、羽山さん、もう少しだけ!話を、」
「ダメです。出て行ってください。」
看護師に首根っこを掴まれて、猫のように追い出される村上を、ヒカルは腹を抱えて笑った。拍子に、撃たれた傷がキリリッと痛む。
ヒカルは涙目になり呻きながら、ドアの陰へ村上を見送った。
―――ばいばい、村上武智。
―――ばいばい、椿山ヒカル。
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