Chapter 20

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2、 花が良いか、菓子が良いか。 悩んだ結果、花にした。 入院患者への見舞いであっても、今まで男性相手に花を選んだ事はない。大抵は暇潰し用の雑誌だ。 見舞いの相手が椿山ヒカルでなければ、花など考えもしなかっただろう。 色とりどりの花たちを手に持ち、武智は数日ぶりに病院を訪れていた。本当はもっと早く来たかったが、どうしても事後処理に時間を要した。これでも大急ぎで片付けてきたのだ。 「あ、羽山さん。」 顔見知りの看護師の羽山のうしろ姿を見つけ、武智は声をかけた。羽山が振り返り、武智を見ると不思議そうに首を傾げる。 何故、そんな顔をされるのか分からずに、武智も同じ様に首を傾げた。 「椿山さん、退院されましたが。」 「は―――ぁ?」 羽山の予想外の一言に、武智の口から間抜けな声が出た。ポカンと口を開けたまま固まる武智を見て、羽山がますます怪訝そうにする。 「4日も前ですよ。ご存知なかったのですか?」 「聞いてません。」 ―――4日前というと、 「椿山ヒカルさんが目を覚ました、次の日?」 「そうなりますね。」 全治2ヶ月の怪我の筈。それが、僅か2日で退院など有り得ない話だ。 「あの傷で、ですか?」 武智に責めたつもりは無かったが、納得いかないのが伝わったのだろう。羽山がカチンときた様に口を尖らせて言う。 「もちろん止めはしましたよ。でも、本人がどうしても退院されると仰るので。」 「あの人は何を考えて。―――分かりました。本人に連絡取ってみます。」 そうは言ってみたが、連絡が取れないのでは―――と、嫌な予感がする。喜原遼基に拐われた時点でヒカルのスマホは音信不通だ。 「連絡が取れましたら、他の病院でもいいですので、きちんと治療してください―――と、お伝えしてください。あの調子だと椿山さん、放って置きそうなので。」 「ありがとうございます。伝えます。」 「では。」 軽く頭を下げて立ち去る羽山を見送り、武智は踵を返した。とにかく、ヒカルに会って問い質さねばならない。 武智は病院を出るとタクシーを捕まえ、ヒカルの自宅マンションへ向かった。 しかし、案の定、インターフォンを鳴らしても応答はなく、管理会社に警察権力を違法行使して聞いたところ、どうやらヒカルは引っ越している事が分かった。 しかも、1週間以上も前に。 いったいどういう事なのだ。
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