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2、
花が良いか、菓子が良いか。
悩んだ結果、花にした。
入院患者への見舞いであっても、今まで男性相手に花を選んだ事はない。大抵は暇潰し用の雑誌だ。
見舞いの相手が椿山ヒカルでなければ、花など考えもしなかっただろう。
色とりどりの花たちを手に持ち、武智は数日ぶりに病院を訪れていた。本当はもっと早く来たかったが、どうしても事後処理に時間を要した。これでも大急ぎで片付けてきたのだ。
「あ、羽山さん。」
顔見知りの看護師の羽山のうしろ姿を見つけ、武智は声をかけた。羽山が振り返り、武智を見ると不思議そうに首を傾げる。
何故、そんな顔をされるのか分からずに、武智も同じ様に首を傾げた。
「椿山さん、退院されましたが。」
「は―――ぁ?」
羽山の予想外の一言に、武智の口から間抜けな声が出た。ポカンと口を開けたまま固まる武智を見て、羽山がますます怪訝そうにする。
「4日も前ですよ。ご存知なかったのですか?」
「聞いてません。」
―――4日前というと、
「椿山ヒカルさんが目を覚ました、次の日?」
「そうなりますね。」
全治2ヶ月の怪我の筈。それが、僅か2日で退院など有り得ない話だ。
「あの傷で、ですか?」
武智に責めたつもりは無かったが、納得いかないのが伝わったのだろう。羽山がカチンときた様に口を尖らせて言う。
「もちろん止めはしましたよ。でも、本人がどうしても退院されると仰るので。」
「あの人は何を考えて。―――分かりました。本人に連絡取ってみます。」
そうは言ってみたが、連絡が取れないのでは―――と、嫌な予感がする。喜原遼基に拐われた時点でヒカルのスマホは音信不通だ。
「連絡が取れましたら、他の病院でもいいですので、きちんと治療してください―――と、お伝えしてください。あの調子だと椿山さん、放って置きそうなので。」
「ありがとうございます。伝えます。」
「では。」
軽く頭を下げて立ち去る羽山を見送り、武智は踵を返した。とにかく、ヒカルに会って問い質さねばならない。
武智は病院を出るとタクシーを捕まえ、ヒカルの自宅マンションへ向かった。
しかし、案の定、インターフォンを鳴らしても応答はなく、管理会社に警察権力を違法行使して聞いたところ、どうやらヒカルは引っ越している事が分かった。
しかも、1週間以上も前に。
いったいどういう事なのだ。
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