Chapter 20

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3、 『camellia』では、いつか見た若いバーテンがシェイカーを振っていた。名前は何だったか。聞いたような気もするが、忘れてしまった。 あの後、慌ててヒカルの住民票を調べても、元の住所から動いておらず、早々に行き詰まってしまったのだ。 人伝に捜すしかないと考えてみるものの、共通の知人と云えば、一人の顔しか浮かばず―――。 カラン―――という、ドアの開く音に武智が振り返ると、店内に入ってきたのは待ち人である喜原勝基だった。 約束の時間の5分前。 「待たせたか?」 「いえ、先ほど来たばかりです。」 武智の隣に勝基が座ると、2人の前に若いバーテンが流れるような仕草でグラスをテーブルへ置く。 グラスは2つだ。勝基が来る時間にカクテルを仕上げたタイミングの良さに感心した。 そのバーテンがシェイカーを傾け、2つのグラスへカクテルを注ぐ。 「ギムレットです。」 ―――『別れ』か何かの意味だったような。 これは只の演出なのか。それとも、皮肉なのだろうか。 思わず武智が苦笑いすると、隣に座る勝基は鼻で笑い、一気にグラスをあおった。
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