Chapter 21

1/6
前へ
/89ページ
次へ

Chapter 21

1、 『村上武智』が消えた。 それは、もう呆気なく。 元の住居に戻れば、潜入期間の事は一気に現実味を失い、全てが幻だったかのような錯覚に陥った。―――かのようだったが、そう簡単に忘れられる事ではなかったようだ。 ふとした時にありありと甦り、ひとりで抱えるには堪えがたいほどの苦痛をもたらした。 こうして、3日間のオフをもがいて過ごし、今日からが刑事としての復帰初日となるのだが―――。 東城克成(とうじょうかつなり)がエレベーター前にぼんやり立っていると、後ろからハスキーな女性のの声が自分の名を呼んだ。 「東城、おはよう。」 克成がゆっくり振り返ると、由佳里改め、赤石夏海(あかいしなつみ)がいた。 ほぼノーメイクでショートカット、黒のパンツスーツといった姿だ。いつも通りの女性らしさの破片もない。『由佳里』の時とは全然違う赤石に、何故かホッとなる。 「おはようございます、赤石さん。」 「髮、切ったのね。それにしては、冴えない顔。」 赤石から指摘されて、克成は反射的に短くなった髮を撫でた。 ザリッ―――と、短い髪の毛が指に当たる。この触り心地はあまり好きではない。 「無事に任務終了したんだから、もっと喜びなさいよ。」 「はぁ。」 「あ~あ、重症ね。」
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

220人が本棚に入れています
本棚に追加