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2、
復帰して1週間になるが、克成は未だ現場に出れていなかった。本来なら2、3日で戻る筈だったのだが、ずっとデスクワークに掛かりっきりだ。
椿山ヒカルを忘れようと、がむしゃらに書類整理に打ち込んだのがいけなかった。
同僚からは『事務職人の東城』と呼ばれ始め、班内の書類仕事を押し付けられ続けていた。
今も克成の机の上には、崩れそうなほどに積まれた書類たちが、多大なる威圧感を放ちながらどっしりと鎮座している。
―――気が遠くなるな。
長時間、液晶画面とにらめっこしていたが、集中力が途切れた。
克成が休憩にしようかと思った時、
「東城。」
赤石に地面に沈みそうな重い声で名を呼ばれた。目が合うと、来い来いとこちらへ手招きする。
出した小銭を戻してデスクの前に立つと、赤石に無言でじいっと睨まれた。苦虫を噛みしめたような顔とは、こんな顔か。
「何です?報告書なら今、書いてますが。」
「総監がお呼びよ。」
ザワッ―――と、室内が揺れる。
克成も驚いた。
総監自らヒラ個人を呼びつける事など、今までに1度もなかったからだ。
「あんた。いったい、何やらかしたのよ?」
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