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「いや、何もしてない―――、と思います。」
いまいち自信がなく、消えそうな声量になった。
「総監が直々に電話して呼び出してるのよ。何もしてない訳がないでしょう。」
「そんな事、言われても。」
復帰してから書類整理しかしていないのだから、心当たりはない。克成の書類にひどいミスがあったとしても、呼び出されるのは班長の赤石だ。
だから、用件には見当もつかない。
「とにかく、そのアホ面どうにかしてから、行きなさい。」
―――アホ面って。
ひどい言葉遣いだ。
克成がこの部署に配属された最初から乱雑ではあったが、どんどん酷くなっていっている気がする。
赤石に春は遠いな―――と、失礼な事を考える。もしも口に出せば、結婚なんてお断りだと返されるだろう。
克成の心の声が聞こえたようなタイミングで、ギリッと赤石が目を尖らせる。
できるだけ平素の顔を保ちながら克成が首を傾げると、赤石にニヤリとサディスティックな笑みを返された。
何をされるのかと、身構える。
「もしかすると特別任務とかで、また潜入させられるかもね。」
赤石の不吉な予言に、克成は背筋を震わせた。
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