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Chapter 22
1、
〈A side〉
藤森の柔和な笑顔に見送られ、雨宮奏生は警視総監室から出た。あの紳士然とした笑顔が曲者だ。
実際には、動揺する奏生の反応を見て楽しんでいるに違いない。
―――全く、あの人は。
奏生が苛立ちまかせに廊下を早足で歩くと、慌てたように後ろから東城克成が着いてくる気配がする。
舌打ちしたいのを我慢して、奏生はエレベーターのボタンを押した。
この階で止まっていたらしく、間を置かずすぐにドアが開く。東城が続いて乗り込むと、奏生は振り返らずに声をかけた。
「東城、5階?」
「え―――、あ、はい。」
エレベーターに乗り、奏生が5階と1階のボタンを叩くように押すと、ゆっくりとドアが閉まる。
東城と無音の密室にふたりきりになってしまった訳だ。
気まずいし、有り得ないし、逃げ出したい。
「あの、ヒ―――雨宮さん。」
ヒカル―――と呼びかけたのだろう。
不自然な間が開いた後に、東城が奏生を名字で言い直す。
東城からすれば、聞きたい事ばかりの筈だ。しかし、のんびりと話に花を咲かせている時間はない。質問をされる前に、奏生は口を開いた。
「打ち合わせは後日にしよう。早めに電話をするから、今の仕事を―――」
「ケガは大丈夫ですか?」
思ってもみなかった言葉が降ってきて、奏生は咄嗟に振り返った。
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