Chapter 22

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2、 神業のスピードで事務処理を片付け、東城克成は背凭れに背を預けた。 克成の机の上に鎮座していた書類たちは見事に無くなり、代わりのように今は上司の赤石夏海の机に乗っている。それはそうだ。部下が書類を作ったのなら、上司が目を通さねばならないのは当たり前で―――。 克成がぼんやり上司の机の書類の山を眺めていると、視線に気付いた赤石がい殺しそうな目で睨んできた。 「何、またなの?」 「あ~、はい。これで終わりです。」 最後の書類の束を手に取り、赤石の机まで持っていった。それを克成が恭しく差し出すと、バサッと乱暴に赤石が受け取る。 「その任務、私に対する、嫌がらせにしか思えないわね。」 総監からの命令で、新しい任務が入った―――とだけ赤石には伝えてある。『椿山ヒカル』が雨宮という名の捜査官で、彼とペアを組むことになった事などは言っていない。 「で、まだ何も分からないの?」 「近い内に、説明がもらえる筈で。わかり次第、予定は報告します。」 「いいえ、いいの。私への報告は必要ないわ。」 赤石から思いもよらず断られ、克成は首を傾げた。 「名目上はともかく、実質的に私はあなたの上司から外れるのよ。」 ―――そうなのか。 どうやら当事者である克実より、赤石への方が詳しく説明されているらしい。 急に頼るべき上司がいなくなり、任務の内容はひとつも知らず、不安ばかりが募る。 「まあ、困った時には相談しなさい。力になれるか分からないけど。」 励ましているのかよく分からない言葉だ。 克成が苦笑いしつつ礼を言って返すと、ブブッ―――と、内ポケットのスマホが震えた。 胸元を探りながら赤石を見ると、追い払うような仕草をされる。一礼だけして踵を返し、克成はスマホを取り出した。 やはり雨宮からの連絡だ。 ―――今夜22時、カールトンホテル1201。 メールにはそう書かれていた。
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