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Chapter 23
1、
伸ばした自分の指先は震えていた。
重ねた唇は柔く、熱く。
そして、胸が潰れるほど苦しく、目の前のこの人がどうしようもなく愛しかった。
「―――はっ、」
離れたふたりの隙間から、微かな声が零れる。
その声が東城克成の耳を甘く痺らせ、体の熱が上がった。
―――駄目だ。
これでは『村上武智』の時と同じようになってしまう気がする。互いに嘘ばかりで体だけ繋がっていた頃にはもう戻りたくない。やっと隠し事をする必要がなくなったのだから。
克成は振りきるように、雨宮奏生の肩を引き離した。
「あなたとは、しません。」
急な克成の拒絶に、雨宮がキョトンと瞬く。
「好きです。好きだから、こういう事は―――。」
意味が分かっていないだろ相手に克成が言葉を重ねると、ククッ―――という、雨宮の笑い声に遮られた。
「まさか、今さらそんな事、言うとはな。」
確かに、今さらかもしれない。
気分を害した様子がない代わりに、特に感じる事もないらしく、雨宮があっさりと立ち上がる。
「やる気がないなら、別にいいけど。じゃあ、明日からよろしく。お疲れ。」
にこやかに笑って言うと、雨宮が踵を返す。
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