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3、
〈A side〉
「雨宮さん、お願いが―――。」
雨宮の目の前で立ち止まると、東城が腕を伸ばしてきた。ふたりの距離が縮まる程に、体の熱が高まっていく。ねじ曲がった心に比べて体は素直だ。
早く触れられたい。
その手で、その舌で、どろどろになるまで熱く溶かして欲しい。
「こういう事、他の人とはしないでください。」
指の腹で奏生の頬を撫でながら、東城が切なげに眉を寄せる。しかし、その瞳の奥には隠しきれていない熱が揺らめいていた。
―――そうだ。
そうやって、オレを捕まえに来い。
奏生はうっそりと笑い、東城の首筋に腕をかけると、耳元へ唇を寄せた。
「満足させてくれるなら、東城だけにしようかな。」
甘く囁いてから上半身を離し東城の顔を覗くと、そこにはギラギラと獣のように欲を露にした顔があった。
ぞくりとなる。
欲しかったのはその熱量だ。
逃さない―――とばかりに、奏生の体を腕の中へ囲い込む。拘束する腕の力と体温が心地よい。
ほうっと、奏生の口から息が零れた。
「あなたを必ず落としてみせます。」
「楽しみにしている。」
―――本当に楽しみだ。
東城を好きなように振り回すのは、きっととても愉快だろう。どんな風に楽しませてくれるのか、気分が急上昇する。
まるで空を飛んでいる気分だ。
でも、きっと。
星まで届きそうなほど高く舞い上がったその後、東城の手で地上へ落とされてしまうだろう。
早くその時がくればいい―――と、思っている。
地面へ叩きつけられ壊れてしまうのか、それとも落ちてしまう前に溶けて消えてしまうのか。
破片もなく砕ける程に堕ちる事ができれば、とても不幸で、きっと幸せだ。
焦げる熱に晒されながら、空から落下する自分の姿を想像して、奏生はうっとりと瞳を閉じた。
End.
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!
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