一両目 忘れ物

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「この線路が、珍しいんですか?」 「珍しいよ。枕木(まくらぎ)が木なんだから。最近は、どこもコンクリート製や合成の枕木ばかりになっているが、この駅では、今でも木製を使っている。これもそのうち貴重な光景となるだろうと思ってね、写真を撮った」  曳野の言うように、鉄製レールの間に、木製の枕木が隙間なく何本も敷き詰められている。レール外側にも複数本敷かれている。  枕木というと、二本のレールと交差するように敷かれるものだが、ここでは平行だ。 「へえー。確かに、木製の枕木って、見なくなりましたよね」  どこか懐かしい線路の光景。 「木製は耐久年数が短いのと、燃えるから、これからも違う材質にどんどん替わっていくだろう。やがて、枕木の語源も分からなくなるかもしれないな」 「そのうち、『コンクリート製なのに、なぜ枕木って言うんでしょうか?』 なんて、クイズが出そうですね」  写真を撮り終えると、「じゃ、行こうか」と歩き出した。 「ミチルの高校は、ここから歩いて10分ほどだそうです」  亜里の話では、朝よりも帰りの方で遭遇する確率が高いとのことだったので、時間は午後3時過ぎ。  二人で、通学ルートを歩く。  高校まで来ると、校門が見える位置で不審人物がいないか見張る。
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