一両目 忘れ物

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 ウサミミが窓の外を見ると、雨が降っている。  窓ガラスに当たる雨粒は大きくて、音も激しい。  ここ数日は雨続きで、太陽を見ることができない。 「雨が激しくなってきたけど、所長は大丈夫かしら?」  こんな雨の中を曳野はあることで出かけていて、事務所にはウサミミ一人だ。  駅メロディーの呼び鈴が響いた。 “♪チャラチャララン チャラチャララン ララリララリリリンシャララーン♪” 「いらっしゃいませ!」  ウサミミが出迎えると、元気な声が入ってきた。 「おっじゃましまーす!」  ミチルだ。  雨天でも元気一杯なミチルが入ってくると、室内が明るくなる。  ミチルは事務所内を見回して、ウサミミ以外に人がいないことを確認した。 「あれ? 一人? 鉄ヲタ探偵は?」 「いないよ。出掛けちゃった。ミチルが遊びにくることは伝えていたけど、急な用事ができてね」 「そうかー。じゃ、座らせてもらうね」  電車シートソファにドカッと座ったミチルは、背もたれや座面を手のひら全体で撫でた。 「電車と同じ!」  ミチルはソファがとても気に入った。 「この手触り、なんか、好きー」  ソファをナデナデしているミチルの前に、ウサミミはコーヒーを出した。 「どうぞー」 「ありがとう」  ミチルはウサミミの淹れたコーヒーを、「アツッ」とやけどしながら飲んだ。
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