一両目 忘れ物

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 ミチルは、フウフウしながらウサミミに聞いた。 「で、どこまで行ったの?」 「さあー? どこまで行ったんだろ?」 「は? そうじゃなくて! 二人はどこまで行ったのかって、聞いているのよー!」  ウサミミはドキリとしたが、言うほどの出来事はない。 「何にもないよ」 「ほんとにー?」  簡単には信じないミチル。 「本当だって。悲しいほど、何もなし」 「そうかー」  ウサミミの寂しそうな表情で、ミチルは嘘はないのだろうと察した。 「ところで……」  ミチルは、自分の最大の関心事である千路についてウサミミに聞いた。 「千路さんは、ここには来ないの?」  千路は曳野の弟で、ミチルが一目ぼれしたのだが、遠まわしに振られていた。しかし、本人はそのことに気付いていないのだった。 「あー、やっぱりそれかー」  ミチルが事務所へ遊びに来たいと言った時、理由を言われなくても想像するのは簡単だった。  ここに来れば千路に会えるかもしれない、と期待していたのだろうが、あちらだってそんなにここへくる理由はない。 「滅多に来ないから、期待しないほうがいいよ」 「そうなの? ガッカリ」  自分に会いたいからじゃなかったことが、ウサミミにはガッカリだ、 「ミチル、あのね……」 「なに? フウ…、フウ…」  ミチルはコーヒーを口で冷ますと、恐る恐る口をつけた。
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