一両目 忘れ物

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 駅前ロータリーを横断した統の姿が商店街の人ごみに消えたところで、曳野は、「駅に戻ろう」と、ウサミミに言った。 「駅で落とし物が届いていないか、聞いてみてくれ」 「私がですか?」 「そうだ。丁度女子高生だし、本人の振りができる。北千束高校の生徒手帳が落ちていなかったか、聞くんだ。それで、届け出人の名前を確認する」  北千束高校は、ミチルたちの高校名である。 「分かりました」  ウサミミは、東横線側の切符売り場にいた駅員に、「生徒手帳を落してしまったんですが、届け出はありませんか? 北千束高校です」と、聞いた。 「生徒手帳ですか? 調べてみますね」  駅員は分厚い台帳を持ってきた。手書きの記入用紙を、綴り紐でまとめている。  一枚ずつめくりながら、探してくれた。  傘、傘、カバン、傘、定期入れ、携帯電話、傘、携帯電話……。  一枚、一枚に、物品名、形状、届け出人名、見つかった場所、列車番号、車両番号など、分かる限りの情報が記入されている。  やがて、一枚の記入用紙で手が止まった。
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