一両目 忘れ物

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「ああ、ありましたね。北千束高校の生徒手帳が」 「それです!」 「これ、とっくに南北線に移されてますね」 「なんで、南北線なんですか?」 「南北線直通浦和美園(うらわみその)行きの車内で拾われているからです。この後は、東京メトロ南北線に聞いてもらえますか?」  移動後の情報共有はしていないようで、すでに持ち主の手元に戻っていることまでは知らないようだ。 「届けてくれた人にお礼を言いたいんですけど、名前は分かりますか?」 「届けた人の名前は書かれていません。名乗らなかったようです」 「容姿とか、年齢とか、なんでもいいんで、何か分かりませんか?」 「『高校ぐらいの男子』と、メモに書かれています。おそらく、受け付けたものが、見た目で判断したんでしょう。あとは、ないなあ」 「拾ったときの状況は、分かりますか?」 「車内の床に落ちていたとのことですね」 「ありがとうございます。とても参考になりました」  曳野とウサミミはお礼を言って、売り場を離れた。 「これで、決まったな。届けたのは猪瀬統だ」  ウサミミは、統が犯人だという曳野の意見に、まだ半信半疑でいる。
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