一両目 忘れ物

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 曳野とは反対方向に進んだウサミミは、通行人を見つけるたび、「浅野さんのお宅を知りませんか?」と、声を掛けるが、一様に知らないと首を振られる。  途中で出会ったノラ猫にも、「浅野さんの家、知らない?」と聞いたが、耳やしっぽを動かされるだけだった。  捜していく中で、ようやく、『浅野』と書かれた表札を見つけた。 「あったー」  木造モルタル仕上げのデザイナーズ住宅。  なんとか見つかり、ホッとした。  曳野に連絡する前に、ここが亜里の家かどうか確認しようと呼び鈴を鳴らした。 『はい』  亜里の声だ。 「曳野の助手の宇佐美です。開けてもらえますか?」 『今、開けます』  ウサミミは、亜里が無事で安堵した。 「所長に連絡しよう」  手もとのスマホで電話を掛けようとしたところで、後ろから背中を押されて倒れてしまった。  スマホはウサミミの手を離れ、地面に落ちた。
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