一両目 忘れ物

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 ウサミミが顔を伏せたところで、曳野の声が聞こえた。 「やめろ!」  統はその声に驚き、庭石を持ち上げたままで後ろを振り向いた。  そこには、曳野が立っている。しかも、スマホで統を撮影している。  ウサミミも、現れた曳野に驚いた。 「所長!」 「ウサミミ、怪我は大丈夫か?」 「擦り傷程度です」  統は、撮影を続ける曳野に怒鳴った。 「何を撮ってんだよ!」 「ようし、猪瀬統、覚悟しろ。全部撮影している。これでお前を警察に突き出してやるからな」 「余計なことを!」  興奮した統は庭石を曳野に向かって投げたが、持てる力以上に重かったようで、曳野まで届かず落ちた。  今度はスマホを奪おうと、曳野に向かって突進。曳野は、落ち着いてスマホを懐にしまうと、掴みかかってくる統の腕を素早くかわし、制服の襟を掴んで体を半回転。統の体を自分の背中で背負って宙に浮かせると、見事な一本背負いで力いっぱい地面に叩きつけた。  統は全身を打ちのめされ、ピクピクと痙攣すると動けなくなった。    鮮やかな流れで勝負がつき、ウサミミは立ち上がって喜んだ。 「やったあ! やっぱり、所長は強い!」  先ほどの痛みも、どこかへ飛んでいった。
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