一両目 忘れ物

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 対照的に、亜里は真っ青な顔で震えている。  そんな亜里に、曳野が聞いた。 「亜里さんは、こいつに脅されていたんだよね?」 「はい……。さっきの電話の時、私の後ろにいたんです。その事は、伝わりましたか?」 「ああ、ちゃんと伝わった」 「よかった」  話の見えないウサミミは、曳野に説明を求めた。 「今の、どういう意味ですか?」 「僕が統の名前を口に出していないにも関わらず、統を家に入れるなと言ったことを亜里さんが疑問に思わなかった。それで、分かった」  亜里が頷いた。 「その通りです。統が突然やってきて、『自分がここにいることを、探偵に話すな』と言われて、何かあるんだろうと思っていました。それで、統に気づかれないように伝えたんです」 「生徒手帳を君から盗んで情報をネットで売り、忘れ物として駅に届けたのは、こいつ、猪瀬統だった」 「そんな気がしていました……」  亜里も、統に怪しさを感じていた。  統が、動いた。  曳野は、力を込めて統の腕を掴んだ。 「もう、暴れないよ。離してくれ」  統は小さな声で言った。
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