一両目 忘れ物

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「生徒手帳を盗んで駅に届けたのはお前で、その目的は、亜里さんを見にやってきた男から守るためか? どうしてこんなことをしたんだ?」 「……亜里の彼氏に勝ちたかったから」 「え? 彼氏?」  それだけはないと信じていた曳野とウサミミは、ビックリした。 「やだ、彼氏って!」  亜里は顔が赤くなった。そして、否定した。 「彼氏なんていないわよ。どうして、そう、思ったの?」 「いつも同じリストバンドをしているじゃないか。Tって刺繍されたリストバンド。浅野亜里ならAだから、彼氏のイニシャルなんだろ? それで、お揃いなんだろ?」 「リストバンド? ああ、これ?」  亜里の左手首に巻かれた肌色のリストバンド。赤い刺繍糸で、真ん中に「T」と入っている。 「これは……」  亜里は、リストバンドを外した。そこには、やけどの痕があった。 「アイロンを掛けているときに、うっかり角をここに当てちゃってやけどしたの。やけどの痕がリストカットみたいに見えるので、リストバンドで隠していたの。前に言わなかったっけ?」 「え? それって本当だったのか? てっきり、彼氏に苦しめられてリストカットをしたことを誤魔化しているんだと思っていた。じゃ、Tってのは?」 「Tなのは、私がおうし座だからよ。おうし座は、英語でTaurus。そのイニシャルなの。彼氏とか、関係ない!」  話の方向が曳野の思いもよらない方へと進んでいく。 「結局、君は彼女を好きで、好かれようとやったってことか? でもな、たとえそんな理由であっても、やったことは間違っているとしっかり認識するべきだ」 「……」 「ウサミミにも怪我させたし、高校生なりの責任を取ってもらうよ」  曳野は、警察に通報した。
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