一両目 忘れ物

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「所長は、どこまで捜しに行ったんですか?」 「元町・中華街駅で見つかった。僕が乗ったのは、みなとみらい線元町・中華街駅行きの下り電車だったから、横浜駅、もしくは、元町・中華街駅の忘れ物取扱所に運ばれることになる。下りは東横線とみなとみらい線の2社だけだから、まだよかったよ。これが上り方面だったら埼玉辺りまで受け取りに行かなければならない可能性があった。考えただけでうんざりだ」 「財布ならば絶対受け取りに行きますけど、ビニール傘ぐらいなら諦めてしまいますね」 「そこまでの交通費も、自腹だからなあ。ある程度の当たりを付けていかないと大変だ」 「先に、電話で問い合わせってできるんですか?」 「メールでできるところはある。電話はどうかなあ? 身分証の入った財布や、相当珍しいものなら答えてくれそうだけど、傘なんかは数も多いし、似たようなものが多くて難しいだろうね」 「傘でも、思い入れがあったら、うーん、悩むなあ……。かといって、いちいち見に行くのも……」 「2022年には、東横線と相鉄線で直通運転が始まる。そうなると、たとえ下り方面で忘れた場合でも、捜しに行く先が増える。相鉄本線は海老名。相鉄いずみ野線では、湘南台。やれやれ。一体、どこまで行かなければならなくなるのか……」  曳野は未来の心配までしているが、その日が来るのはそう遠くないだろう。  話を聞いていたミチルは、「そういえば、クラスメイトが……」と、思いついたように友人の話を始めた。
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