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「いっつも、失くしたー、落としたーって騒いでいるのよ」
「へえー。その子、おっちょこちょい?」
「成績はいいし、そうは見えないんだけど」
「何を失くすの?」
「たいていは、ハンカチやヘアピン、傘なんか。そういうものは本人も諦めて捜さない。だけど、生徒手帳を落したときはさすがにヤバイって、必死に探していたわ」
「生徒手帳は、失くしたら大変よね」
「あれって、学校名から、自宅住所、顔写真が入っているから、変な人に拾われて悪用されちゃうって考えると怖いよね」
ウサミミは心配した。
「見つかったの?」
「見つかったわよ。それも、駅で」
「電車で落としたのかしら?」
「学校でも家でも見つからなくて、これはもう通学路か、電車の中じゃないかって話になったんだけど、本人はそんなところで生徒手帳を取り出すことはないって言い張って。ダメ元で問い合わせてみたらってみんなに勧められて、ようやく利用駅に問い合わせたところ、なんと、見つかったの」
「それは、良かったわね!」
「そうなのよね。本人はどうして落としたのか謎だって、ずっと不思議がっていたわ」
「生徒手帳と携帯だけは、失くしたくないわね」
「………………」
盛り上がる女子高生2人の会話に、男が口を挿む余地などない。
曳野は、黙って聞くだけで終わった。
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