自堕落な生活

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大学から車で三十分も掛からない高層マンションの最上階。ワンフロアに一室しか無い無駄に広い部屋。 一体この人はどれだけの給料を貰っているんだと、来る度に軽く溜息が出る。 けれどリビングの片面大きな一枚硝子の窓から見下ろす景色は結構気に入っている。 雑然とした都会の建物を、燃えるような紅と紫紺が呑み込んで溶かしていく夕暮れの時間。 現実味の無いこの時間帯の風景が好きだ。 俺の体もあの紅に焼かれて、紫紺から続く闇の中に溶けていく錯覚に溺れる。 それはなんて甘やかで、至福の夢。 「そんなにこの景色が気に入ってるなら、此処に住めばいいいと何度も云っているのに」 俺の好みに合わせたかなり濃い目のブラックコーヒーのカップを手渡し、左手で俺の腰を抱いて先生が右隣に並ぶ。 無言のままコーヒーに口を付ける俺の答えなど分かっているとばかりに、思い出したようにくすりと先生が吐息混じりに笑った。 本当にこの人は、構内での鉄面皮が嘘のように良く笑う。 「そう云えば、今日もまた派手にやられてたみたいだね。あまり女の子を泣かすのは感心しないな」 「人聞きの悪い…。向こうが勝手に期待して、勝手に幻滅して泣くだけです。俺は何もしてない」 うんざりしたように軽く嘆息してコーヒーを口に運ぶ俺に、先生が苦笑する。
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