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「ある意味お祝い、かな」
「お祝い?」
「そう。君が迷路から抜け出し、道を見つけた」
優しく笑って、先生は軽くグラスを掲げた。
この人には、多分全部分かっていたんだ。
俺が何をやったかまでは知らなくても、普段眠れない事も、罰を請いながらも逃げていた事も、そしてきっと、諦めきれない気持ちも全部。
分かっていて俺の求めるものを与え、甘やかしてくれた。
「君を連れて帰れないのは残念だが…。大学での手伝いは、出来れば今まで通りやってくれるか?君は覚えも早いし仕事も丁寧で早い。今から他の人間を探すのは骨が折れる」
「はい。勿論です“センセイ”」
「……全く君は…」
呆れたように軽く嘆息して、先生は喉を鳴らして笑った。
料理は結構量があったものの、ゆっくり一品ずつ運ばれて来るお陰でワインを飲みながらデザートまで食べきる事が出来た。
フルボトルのワインは結局二人で三本空けたけれど。
マンションまで五分ちょっとの道のり、冷たい夜風が火照った肌に心地良かった。
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